公費解体と残された荷物<みかん>
土石流により破壊され半壊以上と判定された家屋は、行政により公費で解体することができる。ただし、電気・ガス等の停止手続きや、ごみの撤去が完了していない場合、解体・撤去に着手できない。その旨、熱海市のホームページにも書いてある。
わたしの家は全壊だった。そして公費解体の申請をした。市の関係者からは、家の中の土砂と、家を振った時に転がる物は全て自分で出すようにと言われた。
我が家には別棟があり、そこの土砂はボランティア延べ1,000人位の方々に出していただいた。大変な思いをして搬出してくれる姿を見て、もう一棟お願いしますとはとても言えなかった。とは言え、土砂も家具もごみも外に出さなければならない。わたしたち家族は避難所から自宅に通って土砂やごみを外に出した。警戒区域内であるため、市役所に中に入りたいと申請を出すたびに、「1日でできないですか」とか「またですか」とか言われた。
全壊と言っても家の中には、泥に埋まったり、泥まみれになった物が数多くあった。何より家の中は泥だらけだった。
異様な臭いを放つ泥の中にいると、その臭いと現実におかしくなってしまいそうだった。それでもやらなければならない。何か月もかけ、全てが終わった時、これで解放されたと思った。
後から聞いた話だと、結構泥もそのまま、荷物もそのままの人もいたらしい。
あの、市役所からはまだやるのかと言われながら、泥に苛まれた日々は一体何だったんだろうかと思う。
今、能登の人達の家が解体されるのをニュースで見ていると、あの頃に引き戻される時があり、せつない思いが甦ってくる。