NEW 危険管理の認識 ―気づけなかった前兆―
土石流をはじめ土砂災害にはいくつかの前兆がある。それに気付けるかどうかが、住民の生命を守れるかどうかの大きな分かれ道となると思う。
土石流であれば、「山鳴りがする」、「急に川の水が濁り流木が混ざる」、「雨が降り続いているのに川の水位が下がる」「異臭がする」などがその前兆であると言われている。
伊豆山でも、前日に異臭に気付いていた人がいたり、大きな石がゴロゴロと川を流れる音を聞いていた人もいたし、わたしの家族は、雨は降り続いているのに川に水がほとんど流れていないのを見て避難を始めた。
熱海市が発災後に公表した「熱海市伊豆山土石流災害に係る熱海市の見解及び対応」の中で前兆現象について、
「避難情報の発令の要否を協議した最終のタイミングである7月3日午前9時頃までに、本市への通報、各所管課による現場のパトロール、そして現場の状況に詳しい消防団などから、伊豆山における土石流の前兆現象についての情報がもたらされることはなかった。」
と記載されている。
しかし、発災当日の朝8時30分時点で、暗渠となっている逢初川の岸谷2号線付近のマンホールから溢水していたことを、熱海市は認識していた。道路が川のようになり、熱海市から依頼された業者が岸谷本線にバリケードを設置して通行止めにしている。
また午前9時50分時点において、堀坂3号線付近で逢初川が氾濫して、やはり熱海市から依頼された別の業者が、土嚢を積みバリケードを設置し通行止めにしていた。
岸谷本線付近の住民は、目の前の道路が通行止めになっていることを知らなかった。ある住民は、外に様子を見に出てみたら通行止めの看板が出ていたと言っている。雨だからと外に出なければ気づけない状況だった。道路が冠水しているということも、危険だから避難するようにという放送もなかった。
その後、堀坂3号線付近で2級河川である逢初川が氾濫しているのに、やはり、川が氾濫して道路が通行止めになっているということを、住民に何も知らせず、避難を促すこともなかった。
住民に危険を知らせるのは、なにも土石流の前兆現象がある時だけではない。重要なのは、土石流の前兆現象があったかどうかではなく、住民が危険な状況になっていなかったかということではないか。結果的に土石流が発生したが、たとえ土石流が発生しなくても、熱海市は、住民の生命に危険が及ぶおそれがある時は、その危険を住民に知らせ、命を守る行動を取るように促さなければならないはずだ。2級河川である逢初川が氾濫しているのである。常識的に考えれば、当然、付近の住民に避難を呼びかけなくてはならなかったのではないか。
午前9時に避難指示の発令を検討した時に、危機管理監は逢初川の溢水を市長に報告したのだろうか。また、午前9時50分頃、逢初川の別の場所が氾濫していることを直ちに市長に報告したのだろうか。「避難情報の発令の要否を協議した最終のタイミングである7月3日午前9時頃までに」と報告書に書いてあるが、その後に住民の生命に危険が及ぶおそれがあるような状況になれば、当然、直ちに危機管理監は市長に報告し、市長は避難指示を発令すべきだったのではないか。午前9時を過ぎたら、避難指示は発令できないという訳ではないだろう。
雨は降り続き、状況は刻一刻と変わっていく。危機管理監は気象庁からの情報やキキクル、そして現場からの情報、それら全てを市長に報告し、市長はそれらを総合的に判断して的確に避難指示を出さなければならなかった。近隣の市町の状況を気にするその前に、自分の町が今、どうなっているのかを考えるべきだったのではないだろうか。
(参考)「熱海市伊豆山土石流災害に係る熱海市の見解及び対応」 熱海市