令和7年4月1日より「熱海市被災農地復旧事業補助金交付要領」が、令和 10年3月31日までの期限付きで施行された。土石流発災から3年9か月を前に、やっと被災農地の復旧事業が始められることとなった。毎年、市長の所信表明の中に必ず記されてはいるが、全く進んでこなかった農地の再生がついに始動することになる。被災農地を所有、または借り受け耕作する者にとっては、まさに長い冬を越え、やっと訪れた待ちかねた春である。
この補助金の対象となるのは、被災農地を原形に復旧するための事業で、令和
3年7月3日以前から耕作の目的に使われ、今後も継続して耕作の目的に使われる農地であり、「熱海市被災宅地復旧事業補助金制度」と同じく、かかった費用の9割を補助するというものである。
他の産業、例えば製造業や販売業、サービス業など、そして漁業などは被災後比較的早い時期に、何かしらの補助金で事業を再開している。長い間、被災した農業者にとってはとても長い間、農業だけが置き去りにされてきた。
被災した農地は、土石流により石垣を崩され、ありとあらゆるものを流されてしまった。小屋や水道・電気の施設、農機具や作物、樹木など、そして、農業者としての生きがいも。発災後捜索のために、かろうじて残った樹木も全部伐採され撤去されてしまった。人命救助のためには仕方ない。そう自分に言い聞かせるしかなかった。
必ずもう一度、農地を復活させる。必ずもう一度、ここで農業をする。決して譲れない思いで、3年9か月の日々を過ごしてきた。「何にも使ってない土地」だとか「畑なんだからいいじゃないか。」とか心無い言葉を投げつけられてもなお、「大切なものを守りたい」、そう思い続けてきた。
発災から間もなく4年になる。補助金を使って復旧し、農地は元の形を取り戻すだろう。しかし、みかんやレモンの木を植えても、実がなるまでには何年もかかる。もし発災後すぐに苗木を植えていたら、今年あたり実がなっていただろうか。あたりまえに自分たちの周りにあった、あたりまえの日常。あの時と全く同じ時はもう二度と戻らない。それでもまた、今の自分なりの日常を取り戻し、その中でまた、みかんやレモンなどを実らせる。作物を作る。以前の形に近いが新しい、今の自分にあった農業をしていきたいと思う。