「棘」 <みかん>
令和6年9月の台風10号に伴う大雨の影響で、逢初川源頭部に3か所の崩落が確認された。その後、10月31日にも新たな亀裂が確認されているが、静岡県は大規模な崩落につながる恐れは低いと説明している。
静岡県は行政代執行で、盛り土の落ち残りの土砂のうち、不安定な土砂を撤去したと住民に説明した。住民が盛り土の全てを撤去して欲しいと要望したのに、盛り土の一部を残しても安全だからと、鉛が含まれる要対策土を、わたしたちの頭上にある逢初川源頭部に残した。
再び土砂が落ちてくるのではないか。残土に含まれる有害物質が川に流れ出るのではないか。下に住む住民の不安は拭えない。
「通常は大丈夫。」「有害物質が出てしまったら、その時考えます。」
静岡県の答えはいつも、どこか無責任に感じられる。
伊豆山に住みたい。でも、本当に安全なのか。あの日の記憶が頭をよぎる。命の危機を感じたあの日のことが、まるで心に棘が刺さったように自分の中に残っていて、なかなか抜けない。やっと抜けたと思っても、残った傷跡がきれいに無くなるまでには、更に時間がかかる。
被災した人全てがそうとは限らない。しかし多くの人が、被災したことで大なり小なり心に傷を負ったのではないだろうか。怖ければ帰らなければいいじゃないか。でも、現実はそんなに簡単ではない。帰らざるを得ない人もいれば、人の気持ちも理屈通りではない。熱海市や静岡県は一番近くで被災者を見てきている。被災者に寄り添うと言うのであればもう少し、既に戻った人、そして戻ろうとしている被災者が、常に抱える不安を理解して欲しい。安心して穏やかに暮らしたいという思いを分かって欲しいと思う。