キャッシュカードの行方—避難者の憂鬱—<みかん>

 被災後、既に取引のある金融機関でキャッシュカードを作ることになった。運転免許証で本人確認できるので、手続きとしては簡単だった。しかし困ったことに、キャッシュカードは転送されない。わたしたち家族はまだ避難生活を送っている。自宅は全壊してしまい、まだ戻れない。金融機関に相談すると、住民票を移したらどうかと言う。しかし、それでは、熱海市からの支援は受けられなくなる。
金融機関の本部の判断で、罹災証明の摘要欄に避難先の住所を載せてもらえれば、それで確認が取れたということで、避難先に送ってくれることになった。つまり、それ以外の方法ではキャッシュカードは作れないという判断だった。
しかし、金融機関から熱海市に連絡したところ、熱海市はみなし仮説住宅として住宅の補助をしてくれているので、今居る住所を把握しているはずなのに「それはできない」ということだった。結果的にキャッシュカードは作れなかった。
以前、被災後に息子が別の金融機関でキャッシュカードを作った。その金融機関は一度旧住所に送り、返送されたことを確認できてから、窓口で本人確認の上、渡してくれた。おかげで息子は無事キャッシュカードを手にすることができた。
今回その事も伝えたが、その金融機関では駄目だった。その担当者が言うには、
「わたしの知る限り、大体どこの市町村も罹災証明に、今居る住所を載せてくれた。」
ということだ。被災者ファーストで考えれば、当然そういう対応になるのだと思う。担当者もかなり粘ってくれたようだが、結局熱海市は、頑なに「できない」を繰り返したらしい。
 帰り際、わたしは担当者に言った。
「被災して帰りたくても帰れない。再発行できなければ困る人だっているでしょう。確認は大事ですが、もっと臨機応変にできないのですか。おたくも、熱海市も。」
 杓子定規な対応で困るのは、被災者である。被災して、ただでさえいろいろな困りごとだらけなのに、更に追い打ちをかけるのか。特にそれが一番分かっているはずの熱海市の対応は、傷口に塩を塗るような対応ではないかと思えた。

2024年10月06日|声:被災者の声