住民の生命を守ること⑤ —届かなかったメール—
令和3年7月3日午前10時28分、住民からの通報で、熱海市は土石流が住宅を襲ったという事実を覚知した。そして、その24分後の10時52分になってやっと、同報無線を使って住民に避難を呼びかけた。SNSで拡散された、あの最大波のわずか3分前である。市長に土石流の発生が知らされたのは10時40分、どうして、「ただちに住民を避難させろ」という強い指示を出さなかったのだろうか。
《サイレン2回「消防署からお知らせします。ただ今のサイレンは、伊豆山小杉造園付近で土石流が発生しました。付近の危険な場所にいる方は避難してください。」2回繰り返し。 こちらは広報あたみです。》
この内容で、果たして危機感が伝わっただろうか。土石流は既に発生しているのである。
そしてこの放送で、誰がどこへ避難したらいいのか解かっただろうか。地元の人でも、「小杉造園」を知らない人は結構いる。また、火災ならば煙が見えるのである程度判断できるだろうが、土石流は突然に、どこから来るのかわからない。どこが危険で、どこが安全なのか判断は難しい。
土石流は逢初川沿いに下っている。もしも、
「緊急放送、緊急放送、伊豆山の逢初川上流で土石流が発生しました。川の付近にいる方は、今すぐ川から離れ、高台に避難してください。ただちに命を守る行動をしてください。」
と放送していたら、住民の行動は違っていたのではないだろうか。土石流は広範囲に影響があるのだから、火災の放送のようにピンポイントで避難を呼び掛けるということが、果たして適切だったのだろうか。
また、発災当日は雨が降っていて、窓を閉めていた家が多かった。普段から同報無線は聞き取りにくく、内容が良く解らないことも多い。そのため熱海市は、日頃から市のメールマガジンの登録を市民に呼びかけ、職員が登録支援を行ったりもしている。警報等が出れば必ず「防災無線」「防災ラジオ」「メールマガジン」の3つに同じ情報が流れるようになっていると、総務省消防庁の「災害事例集」の中で熱海市長も言っている。
しかし、メールは届かなかった。10時52分の放送は、伊豆山地区だけに放送されたが、放送が一部の地区に限られた場合でも、メールは送られると熱海市のホームページに書いてある。
熱海市は啓発活動だけ熱心に行っておいて、肝心な時に「メールマガジン」を送っていないのである。一体何のためのシステムなのか。いざという時に全く役に立たなかった。何故か。それは、熱海市の職員が「メールマガジン」の配信を怠った為だろう。
全員が「メールマガジン」の登録をしていた訳ではないだろうが、亡くなった方の中には、耳が聞こえにくい方もいた。おそらくその方は登録をしていただろうと思う。今から言っても取り返しのつかないことだが、もしメールが届いていたならばと思うと残念でならない。
参考 「令和3年度の災害を中心とした事例集」
総務省消防庁 令和4年11月発行
熱海市ホーページ 「熱海市メールマガジン」