NEW 住民の生命を守ること①—市長のやるべきこと―

 消防庁から「市町村長による危機管理の要諦—初動対応を中心として」が公開されている。同じく消防庁が公開している「災害事例集」の中で、今までの座学が災害対応に役立ったと言っている熱海市長も当然読んだことがあるだろう。
 内容は、「自然災害、国民保護事案等の危機管理における初動対応に関し、市町村長が頭に刻み込んでおくべき重要事項」が記してある。そしてその中で、市町村長の責任・心構えとして6つ挙げてある。
(1) 危機管理においては、トップである市町村長が全責任を負う覚悟をもって陣頭指揮を執る。
(2) 最も重要なことは、①駆けつける、②体制をつくる、③状況を把握する、
④目標・対策について判断(意思決定)する、⑤住民に呼びかける、の5点である。
(3) 市町村長が最初に自ら判断すべき事項は、避難指示の発令と緊急消防援助隊や自衛隊の応援に係る都道府県への要求である。
(4) 災害状況が正確に把握できない場合でも、最悪の事態を想定して判断し、行動する。
(5) 緊急時に市町村長を補佐する危機管理担当幹部を確保・育成する。
(6) 訓練でできないことは本番ではできない。訓練を侮らず、市町村長自ら訓練に参加し、危機管理能力を身に付ける。
 (2)に最も重要なこととして、まず、「駆けつける」ということが最初に挙げられている。危機管理において全責任を負う市町村長が、まず駆けつけ、自分の目で見て、耳で聞き、刻一刻と変わるであろう状況を自ら確認し、瞬時に住民を守る最善の判断を下すために、当然重要なことであることは容易に想像できる。
 では、伊豆山の土石流災害において、熱海市長の行動はどうだっただろうか。
 熱海市長は、午前10時28分の住民からの通報を受けて、10時40分に市役所に居たはずの危機管理監からではなく、自宅に居て、連絡を受けて登庁した消防長から土石流の発生を知らされた。そして登庁したのが11時35分。55分後である。市長の自宅から市役所まで徒歩で10分程。わたしは、なぜすぐに駆け付けなかったのか不思議に思い、被災者への説明会で質問した。その答えは、「移動に時間がかかるから。」
ということだそうだ。市長は携帯電話を持っていないのだろうか。
 2時間近くかけて海まで流れ下った土石流で、亡くなられた27名のほとんどが、市長が自宅にいる間に亡くなっている。そのことについてどう思うか質問したところ、次の答えが返ってきた。
「何もしなかった訳ではない。自宅からちゃんと指示していた。」
 自宅に居て、担当者が理解していた状況を聞いただけの市長が、一体どれだけ状況を把握していたのだろうか。職員からの電話での報告だけで、住民の生命の安全確保について判断したのである。緊急速報メールで市内に緊急安全確保の発令が知らされたのは11時5分。最初の通報があってから37分後である。そして27名もの尊い命が失われた。
(参考)総務省消防庁「市町村長による危機管理の要諦—初動対応を中心として―」

2024年11月17日|被災地の今:発災からの日々